「はぁ、はぁ……まったく。」
 走り続けて辿り着いた城前の石橋。
石橋には驚いた顔で俺を見ているツンツン頭が一人立っている。
「まったく……なんで居るんだよ?」
 ツンツン頭は俺の言葉を遮り斬りかかって来る。
「ま、待ってって! 足はガクガクだし力も入らないんだ。」
「俺にとっては好都合だなっ!」
 くそ、面倒な奴だな!
斬りかかって来る剣を弾く。
が、力負けして後に飛ばされる。
「いたたた……。」
 視界が暗くなる。
俺の倒れていた所に剣が突き刺さる。
立ち上がるが剣は追って来る。
左右からの薙ぎ払いからの振り下ろし。
「ちょこまかと!」
「う、うるさい。ち、ちょ、ちょっと待ってくれって言ってるだろう!」
 大振りな攻撃の隙を突き、剣を突き出す。
ツンツン頭は後ろに飛び避ける。
距離を取り俺を睨んでいる。
 やっと、一息吐ける……。
大きく息を吐いて吸う。
……よし、マシになった。
「……もういいか?」
 律儀に待っていてくれたんだな……。
「ああ、すまんな。」
 ツンツン頭が踏み込んでくる。
正面からその勢いを受け止める。
鍔迫り合いで体勢を崩そうとするが……押し負けそうだ。
ぎりぎりと音を立てる剣。すっと後に引く。
「っ!」
 そして相手を蹴り飛ばす。
よろめくツンツン頭。
「さぁ、退いてもらおうか、ツンツン頭!」
「ツンツン頭って……。」
 突き出しからの薙ぎ払い。更に踏み込んでの一閃。
流石、というべきか手応えは無い。
「俺は<火鼠>だ。覚えとけ!」
俺は左から、ツンツン頭は右から剣を薙ぎ払う。
渾身の一閃は俺達の正面で火花を散らしその衝撃が体を伝う。
「まったく、手間のかかる王子様だな。お前は。」
「当たり前だろう、国をこんなにされて大人しくしてろってのが無理だろ。」
 くくっと笑うツンツン頭。
「確かに。もっともだ。」
 剣を構え、
「じゃ、最後の王族として散れよ。」
 最後……?
「お前、まさか……!」
 最悪の事態が頭を過ぎる。
ツンツン頭を迎え撃つ。
一進一退の攻防。
「お前じゃ俺には勝てない。だろ?」
 ツンツン頭の攻撃は見切れる。それは向こうも判ってるはず。
「それがどうした!」
 ツンツン頭は剣を放り投げ、捨て身の突進で俺に抱きつく。
「このっ!」
 投げつけられた剣を弾いた為、ツンツン頭の突進を避け切れなかった。

「王!」
「どちらへ!」
 城を抜け森を進む。
振り返れば王城は黒煙に包まれ、空は赤黒く染まっている。
「会わねばならない者がいる。」
 貴族達と離れ、市街へと向かう。
「エライオン王!」
 貴族達は追っては来ずただその場で叫んでいるだけだった。
「所詮……いや、もういい。」
 最後は王らしく、そうありたいものだ。


 ……一月が経った。
街は表面上は平静を取り戻しつつある。
しかしちょっとしたきっかけで暴走しそうな雰囲気は国を包んでいる。
地方では武装した貴族達が睨みを効かしているし、それに対する軍も緊張感を維持したままだ。
「少将、如何しましたか?」
「いや、なんでもない。」
 どういうわけか、私、ミュラー・シルバが国の舵取りを任された。
先王は今、カリナズス庭園にいらっしゃる。
それ以外の王族の方々、つまりラトーラ姫とユインロット王子は現在行方不明。
現在も捜索を続けているが、足取りは掴めない。
まぁ無事であるとは思うが……それなら連絡くらい欲しいものだ。
「そうですか。もうすぐ会議の時間です。」
 窓辺を離れ会議室へと向かう。


 長いようで短い一月。
私は小さな酒場に居る。
「さて、どうしようかしら。」
 グラスを傾ける。氷がからんと音を立てる。
「うーん、この先には遺跡があるみたいね。」
 向かい合う『相棒』はナッツを頬張っている。
「じゃ、行ってみましょうか。」
「はいはい、お姫サマ。」
 何度言っても『お姫サマ』と呼ぶ相棒の頭をこつく。
大げさに頭を抑える相棒の仕草も毎度の事だ。
「さ、行きましょうか、ラビット。」
「はいは、というかさ、弟君は大丈夫なのかしらね?」
 一月の間、私の弟、ユインロットの噂は少し聞いた。
新しく出来た政府は私達を探しているようだが、私は戻る気は無い。
ユインも同じだろう。
死んでいないのは判っているがお互いに連絡の取り様が無いのだ。
私はラビットと共に旅をしているし、ユインもまた旅をしている。
お互いにどこに行くのか、どこに向かっているのかは知らない。
生きてればまた会える、そう思っているし、
「また会えるわよ、きっと。」
 ラビットはにやにやと笑っている。

 遠く離れたとある遺跡の中。
青年が眩しそうに手を翳し遺跡を見上げる。
天井は崩れていれ、よく晴れた青い空が見える。
 青年が何か呟くがそのは風に消える。
腰にぶら下げた剣に青いマントが風に翻る。
「ここはいい風が吹くだろう?」
 地元の者だろうか、誇らしげに語る。
「ああ、いい気分だ。」

    〜  了
ここまで読んでくれた方々。ありがとうございました。
初めての自サイトでの小説ということで色々と試行錯誤しながら、ようやく完結となりました。
今後とも書いていくつもりですのでよろしくお願いします。

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